2017年11月9日木曜日

素イデアルが無限に存在する

素数が無限に存在するという定理の証明に、次のようなものがある。

整数全体の集合において、その部分集合で等差数列 (\(-\infty\) から \(\infty\)まで) をなすもの全体を考える。 2つの等差数列の交わりは空集合であるかまたは等差数列であるから、これを基底として整数全体に位相が導入でき、それを \(S\) とする。 実は、この位相のもとで \(S\) は正規であり、第2可算公理を満たすから距離付け可能なことが示される。 各等差数列はその補集合が(同じ差をもつ)他の等差数列の和集合であるから、開集合であると同時に閉集合である。 ここで集合 \(A=\cup_p A_p\) (\(A_p\) は \(p\) の全ての倍数からなり、\(p\) は2以上のすべての素数を動くものとする) を考える。 空でない開集合は等差数列の和であるから無限集合である。 \(A\) に属さない数は \(-1\) と \(1\) だけであり、集合 \(\{-1, 1\}\) は明らかに開集合でないから \(A\) は閉集合になることはできない。 よって \(A\) は有限個の等差数列 \(A_p\) の和集合となることはなく、これは素数が無限に多く存在することを証明している。

上の引用は Ribenboim「素数の世界」共立出版 からとった。 元々は Fürstenberg, On the infinitude of primes. Amer. Math. Manthly, 62, 1955 によるものである。

証明の肝は 1. 等差数列は開集合かつ閉集合、 2. 単数は有限個、 という部分である。 この議論を一般化すると、もう少し一般的な環でも「素イデアル」が無限に存在することが示せる。 まあ、そんなことを証明したいことがあるのか知らないが。

命題: 整域 \(R\) は次の3条件を満たすとする。 0. \(R\) は無限集合、 1. 任意の極大イデアルの剰余類は有限個、 2. 単数は有限個。 このとき \(R\) には無限個の極大イデアルが存在する。

証明: \(R\) における全ての極大イデアルとその剰余類から生成される位相を考える。 このとき空集合以外の開集合は無限集合である。 単数全体の集合 \(R^{\times}\) は有限集合だから開集合ではないことがわかる。 極大イデアルは、自身を除く剰余類の有限和集合の補集合であるから閉集合である。 単数以外の元はいずれかの極大イデアルに属するので、\(R \setminus R^{\times}\) は極大イデアルの和集合である。 各極大イデアル自体は閉集合だが、この和集合は補集合が開集合にならないので閉集合でない。 したがって、極大イデアルが無限に存在しなければならない。

たとえば虚2次体の整数環では単数が有限個なのでこの証明が通用する。 というか \(\mathbb{Z}[i]\) のイデアルについて考えているときに上に引用した証明を思い出して、 \(\mathbb{Z}[i]\) でもいけるなあと思っただけの話だったのだ。

2017年2月19日日曜日

書原阿佐ヶ谷店の閉店

南阿佐ヶ谷の駅前にある書店、書原阿佐ヶ谷店が今日で閉店する。 入居しているビルの建て替えに伴って、ということだ。

考えてみれば自分の日々読む本の結構な割合はここで購入するものだった。 もちろん、図書館も使うし、マンガなら書楽の方が充実しているし、より学術よりのものは新宿紀伊國屋に出向いて買うことが多い。 重そうなものやマイナーなものは Amazon に頼んでしまうし、仕事帰りに渋谷のブックファーストやジュンク堂書店で買うこともたまにある。 それでも一番利用していた書店だった。

その昔、アルバイトをしていたこともある。 大学生になって最初に始めたバイトだった。 夕方から閉店までの時間帯、レジを打ち、返本の伝票を記入し(いまならバーコードか何かだろうけどそのころは手書きだった)、割引で書籍を購入し…。 週に何度も1万円を越える買い物をしていく常連客などもいて、 大人になったらあんな勢いで本を買ってみたいものだと思っていた。 まあ、現実は読書スピードがそこまで追い付かないわけだが。

最後に、書原さん今までありがとう。

※ 書原という会社としては何店舗かあるので、閉店するのはあくまで阿佐ヶ谷店の話です。

2017年1月1日日曜日

2016年の読書

2017年が始まったので、2016年に読んだものの中で印象に残っているものを紹介する。 前にこんな感じで書いたのは 2013年の読書 だから3年ぶりだ。

ヘレナ・アトレー「柑橘類と文明」築地書館

読書メーターの記録によればこれが2016年の最初に読んだ本。 イタリア各地で栽培されているそれぞれの土地ごとの柑橘類を訪ね歩く紀行文で、 その後ピエール・ラスロー「柑橘類の文化誌」一灯舎を読んだり、 自分の中での柑橘類ミニブームの始まりとなった。

トリウム熔融塩炉関連本

これは別にまとめたので省略。

エイドリアン・ベジャン, J.ペダー・ゼイン「流れとかたち」紀伊國屋書店

「有限大の流動系が時の流れの中で存続するためには、その系の配置は、中を通過する流れを良くするように進化しなければならない」というコンストラクタル法則を説明した本。 提唱者であるベジャンの会話のスタイルが YouTube に上がっているインタビュー動画などを見ても定義・例・説明がごた混ぜに進むものなので、続編の The Physics of Life でも(さらに)くどい文体なのは我慢しなければならないが、 考え方は面白い。 正しいとも正しくないとも判断しづらいのが、科学として成り立つ議論なのか、という引っ掛かりを生んでしまうからか、書評などでは否定的な意見も多い。

かげきしょうじょ!!

マンガの中では特に斉木久美子の「かげきしょうじょ!」が印象的だった。 「かげきしょうじょ!」1, 2 が集英社のヤングジャンプコミックスで出ていたものが、 白泉社の花とゆめコミックスに移って(名前も「かげきしょうじょ!!」と ! が一つ増えて)1, 2, 3 と刊行が続いている。 宝塚音楽学校をモデルとした学校の個性溢れる生徒たちの成長物語。

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