2016年4月10日日曜日

グラフは2次形式、とか考えてみる

変数集合を \(V=\{v_1, \ldots, v_n\}\) とする。 適当な環 \(R\) をとり、多項式環 \(R[V]\) を考える。 この中の2次斉次多項式、つまり2次形式をグラフということにする。

\[g = \sum a_{ij}v_i v_j\]

\(V\) はもちろん頂点集合と考える。 \(a_{ij} \neq 0\) のとき、積 \(v_i v_j\) をグラフ \(g\) の辺といい、頂点 \(v_i\) と \(v_j\) は隣接するという。 辺 \(v_i^2\) をループと呼ぶ。 \(g\) が \(V\) の真部分集合 \(V'\) 上の多項式環 \(R[V']\) に含まれないとき、\(|V|\) を \(g\) の位数という。 ここで一つ注意として、\(a_{ij}\) は一番簡単な設定では \({0, 1}\) にしか値をとらないので整数と考えればいいが、 辺に何らかの値を持たせる (「2本ある」とか「容量が2.5」とか)必要があるときに \(a_{ij}\) の値としてコード化する役割を担うため、 係数環 \(R\) の選択の余地を残してある。 これは係数 2 を重複した辺の本数と思うか、割り振られた容量が 2 と思うかは解釈次第だし、 両方の情報を盛り込みたいと思ったら、係数も多項式環みたいなものを使って分けて考えるようにするのは自分の責任ですよ、という割り切りを意味している。

手始めに彩色数を考えてみる。 頂点に色を塗るのだが、隣接する頂点には別の色を塗らなければいけないという制約を付けるとき最低限必要な色数のこと。 係数環は \(\mathbb{Z}\) で良い。 色の集合 \(C_m\) を \(\{c_1, \ldots, c_m\}\) という集合とする(\(m\) はパラメータ)。 \(g\) の各頂点 \(v_i\) に色 \(c_j\) を対応させると、自然に多項式環の準同型 \(\phi: \mathbb{Z}[V] \rightarrow \mathbb{Z}[C_m]\) が定まる。 気付けば像もグラフになっている。 先程の「隣接する頂点には別の色」というのは、辺の像がループにならないということだ。 実は彩色数とは"グラフの準同型写像"でループができない最小の像の位数、みたいな言い方ができたのだ。 というのが今日の気付き。

以下余談というかあとがきというか。 世の中には代数的グラフ理論という分野があって、グラフは行列、ということで推し進められている。 プログラムのデータ構造的にも確かに似たようなものなので納得できるのではあるが、 有向グラフの特殊ケースとして無向グラフがあるように見えて(つまり対称行列だけが無向グラフという限定の方向)、ちょっと気持ち悪い。 その点、多項式方式は始めから無向だし(変数の積の可換性を仮定すれば)、ハイパーグラフは次数を上げるだけだし、どうだろう。 ちなみに、2次形式は行列、という見方も一般的なので、実際のところ何ら広がっていないのかもしれない。

2016年4月3日日曜日

区画整理記念碑を読んでみた

阿佐ヶ谷北側の暗渠を西に辿っていったところに、区画整理記念碑というものが建っている。 すぐ隣には石仏が数体ある。

桃園川の上流、という認識だったのだが、ちょっと見てみたら「千川用水」という文字が飛び込んできて気になったので、読んでみた。

夫区画整理之業也土木行政中至望之工事而其成否所繋地方隆替
最大矣抑千川用水貫流天沼地区東西灌漑排水利便居多然水路屈
曲河幅広狭不一旦近年伴郷邑急速発展埋立増築工事頻行沿岸住
宅日加多是以河床漸次埋塞用水減其使途一朝際会雨期即河水氾
濫禍害不可挙数為郷者必先揣知人之所苦殃之所起不可不講救済
之策於此有志会同而企図区画整理鳩首凝議前後数次不唯屏除水
害兼増減道路迂曲者直通狭隘者広闊使交通至便即公衆永祚也宜
速果断慣行捍烖興利豈可躊躇遷延乎於是精査一決議東京都当局
組織天沼土地区画整理組合而起工時昭和六年八月十五日也爾来
組合員五拾有余名偕協心勠力進而捐私資拮据精励夙夜任其経営
持或用地買収家宅移転等齟齬扞格有不如意雖遭遇幾多盤根錯節
毎循上司指揮役員画策善処組合員亦鞠躬竭力終始不懈功程克進
捗今茲昭和十三年五月一日竣成閲年七星霜整理地域総面積三万
五千有余坪工費雖就六万円地区内自田畑訖池沼沮洳地渾化住宅
地寔郷党開発一新紀元而吾人疇昔之願亦了矣
語曰田野闢民人給惟奕世住民享此余沢可以見其繁盛倍蓰於昔日
矣乃卜地建碑記整理梗概以伝後毘
   昭和十三年歳次戊寅孟夏  成斎 輿水季吉撰文並書

天沼地区を貫いて流れる千川用水はぐねぐねして河幅も一定せず、氾濫したりして大変だったので区画整理をすることにした。 東京都に働きかけたりして昭和六年に始まった工事がいろいろ協力もあって昭和十三年には完成した。 …というような(相当適当)文章だった。

「読んでみた」とか軽そうに書いてしまったが、 実際のところは写真に収めて後で文字に起こす作業が想像以上に面倒だった。 撮って帰った写真では上手く読めない文字があって二度三度再撮影したし。 知らない漢字がいくつかあって最後は漢和辞典と手書き入力の助けが必要だった。 「烖」(災の異体字)とか「勠力」「扞格」「沮洳」辺り。 「倍蓰」の「蓰」は五倍するという意味だそうで、機会があればどこかで使ってみたい。